【はじめに】
米中貿易戦争が混迷を深める中、中国政治では四中全会がまだ開かれないというちょっと困った状況です。これに関連して日経ビジネスオンラインで興味深い二つの記事が出ました。

  • (津上俊哉)インタビュー

「米中首脳会談、中国が大きな譲歩をした理由ー破談となった時、米国は関税率引き上げられるのか?」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/120500178/

米中首脳会談の勝利者はどっち?表面的にはトランプの一方的勝利だが……」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/120400189/


お二人とも現代中国分野では高名な識者ですが、明確に畑というか情報ソースが異なります。そんな津上・福島両氏の指摘がともに「習近平やらかした(やりすぎた)」という声が共産党内部に結構溜まっていること、それが4中全会が開かれていないことと関係しているかもしれないこと、場合によっては経済担当副総理である劉鶴のクビが飛ぶくらいはあり得る状況であること、そういう意味で近々開かれるであろう中央経済工作会議、4中全会が重要局面という見解で一致している、というのは大変に興味深いことと感じるのです。

そんな中、翌年の経済政策の方針を決める「中央経済工作会議」が12月19日に開かれるという公式発表がありました。個人的には”ムービースタア(温家宝)と汪洋どなりあい”以来の修羅場となる”劉鶴吊るし上げ”がみられるのか!? というような注目の仕方しかできないのですが、今回は毛色を変えてフィナンシャル・タイムズや財新などに寄稿している経済専門家・沈建光の「中央経済工作会議の展望」という記事をご紹介します。経済はまったくの門外漢なので、優しく教えてくれると助かります。


「中央経済工作会議の展望:減税と市場開放を中心に」沈建光


毎年年末に開かれる中央経済工作会議は、中国経済の脈を測り翌年の経済政策を観察する鍵となる。昨年の会議が金融リスクの防止に焦点を当てていたのに対し、中国経済の内外におけるリスクは予測を超え、中国と米国の貿易戦争の深刻化、国内消費の減退、インフラ投資の低下、民間経済の不安定、資本市場の不振などの新たな状況により、すでに「6安定性」、すなわち「「雇用の安定、金融の安定、投資の​​安定、外国投資の安定、対外貿易の安定、安定した予測」というワードが最近の重要な意思決定に用いられるようになっている。

このような状況下で、筆者は今年の中央経済工作会議では経済のさらなる低成長を容認し、マクロ経済政策もより寛容となり、特に減税が不可欠であると予測する。それ同時に、米国との貿易休戦を積極的に推進し、市場開放と構造改革の強化が来年の経済活動における最優先課題だと考える。


【経済成長の目標は6%前後か】

近年では、中国経済構造改革、また経済成長の全体的な下降傾向に伴い、GDP経済成長率の目標値も2011年の8%、2012年に7.5%、2014年には7%、2016年の6.5-7%、2017年にはは6.5%と、2年ごとにほぼ0.5%ポイントずつ下がっている。また中央経済工作会議が直面する「経済下方修正への圧力の増加」という現実から予測すると、構造改革と外部のリスクに対応するため、2019年のGDP経済成長率は6%前後まで低下させると予想される。

中国の経済成長を牽引してきた消費・投資・輸出の「トロイカ」の現在の状況から判断すると、中国経済のマイナス傾向は来年も強いままだろう。特に消費に影響する家計所得の伸び率の低下は、消費のさらなる減速を促すだろう。同時に、不動産価格の高騰、各種消費者ローンの締め付け、そして株式の価格下落などは、人口のかなり部分において消費行動の制約が進むだろう。また企業収益の低下などの要因も、住民の短期的な消費意欲を低下させる。いかにして消費刺激策を展開するか、これが今回の中央経済工作会議の主要なテーマのひとつとなる。

投資面では、財政目標に左右されるインフラ投資は今年の経済成長率に関わる中心的なものとなる。政策の転換に伴い、インフラ投資は10月以降加速している。中央経済工作会議では、”補短板”(弱点補強〈底上げ〉)を行うことで、インフラ整備の経済的役割を果たそうとするだろう。しかし、いくつかの”補短板”施策は数ラウンド後にもはや「底上げ」とはならず、また引き続き投資を増やしても限界利益は引き下がり、かつ政府の債務負担が大きくなるという制約に直面することを考えると、筆者は将来的なインフラ投資は鈍重なものとなり、即効性のあるものにはならないと考える。

不動産投資では、すでに不動産投資は減少傾向にある。同時期の土地購入伸び率が高いことを考えると、実際の不動産投資下落幅はさらに悪化している可能性がある。不動産市場についての対策は10月31日の政治局会議でも提起されず、年末の中央経済工作会議でもやはり曖昧なままとなり、不動産の長期的なメカニズムの確立を重視する程度だろう。現在の不動産販売の減少、住宅ローンの伸びが低下し続けていることを考えると、来年の不動産市場は全体的にマイナス傾向のままだと予想される。

製造業の投資は民間企業の信頼と密接に関係している。今年は民間企業の経営が困難に直面しており、一方で景気の低迷や資金調達環境の悪化に伴い、企業収益は下がりコストも上昇している。また一方で(政府が推し進めている)レバレッジの解消、過剰生産能力の解消、環境保護の強化や納税統一化などの政策は、民間企業への負担が明らかである。現在の政策決定層はすでに民間企業の地位を強化し、民間経済の発展をサポートし、民間企業への緩和的政策や財政的支援などを表明している。中央経済工作会議でもこの政策の方向性は継続されるだろう。

対外貿易では、数ヶ月前の高成長とは対照的に、11月の中国の輸出の伸び率は急速に一桁にまで低下した。これは米中貿易戦争を避けるために発動した「輸出前倒し」の刺激効果が弱まってきたことを示している。来年に向けてだが、著者は90日以内に米中間が休戦協定を結ぶことについて今も楽観的である。筆者の見解では、現在の華為、その前のZTEに関する事件は、すべて米中関係が貿易戦争から技術戦争へとシフトしたもので、かつ米中両国の経済体制とイデオロギーにおける違いにあると考えている。短期的に経済・貿易関係を保持する唯一の方策は、中国と米国の政治的、外交的、イデオロギー的な分野での全面的な対立を避けるため、中国経済の構造的転換のための時間を得ることだ。したがって中央経済工作会議では、10月31日に開かれた政治局会議で出した”外部環境に深刻な変化が発生した”という判断を継続し、米中の二国間貿易協定締結に向けて進めるかもしれない。


【減税と開放が2019年のキーワードとなるか】

内外からの圧力もあり、中央経済工作会議では「6つの安定」が強調されることになるだろう。そして2019年のマクロ経済政策面では「積極的な財政政策と慎重な金融政策」の継続が維持されると予想するが、しかし内容は昨年とは大きく異なる。例えば、金融政策で昨年提示されたのは「慎重かつ中立的な金融政策」だったが、それを進めている中で今年の前半には「レバレッジ解消と厳格な監督」が主要なトーンとなり、全体的に緊縮気味となった。そして今年後半、「レバレッジの解消」から「安定的なレバレッジ」へと変わるに伴い、金融政策もより緩和する兆しがある。

2019年の中国経済を展望すると、金融政策は「緩和基調の中立」を維持すると思われるが、それ次のような側面による。1:国内景気の低迷、民間企業の困難などをサポートするためには緩和的な金融政策環境が必要であること。2:世界経済がマイナス傾向で、FRBがよりハト派的な姿勢をみせ、ドル利上げサイクルが減速していること。3:インフレ圧力の低下により、10月のCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)は減少傾向を示しており、来年のCPI目標を3%に設定、実際のインフレーションレベルを2%にまで減少させ、金融政策のためのスペースを確保すると思われること。同時に預金準備率の引き下げ、金利引下げいずれとも政策選択肢となるだろう。

もちろん、中国の金融政策の有効性が低下していることを考慮すると、来年の積極的な財政政策は、まさに「積極」の文字通りより大きな役割を果たすかもしれない。2019年の財政赤字率(対GDP比)は3%を目標とするだけでなく、より広い範囲の減税は絶対必要である。近頃、政策指導者層の減税に対する態度も十分に明確であり、例えば習近平主席は民間企業フォーラムにおいて、企業が求めている「企業の税負担の軽減」を支持している。また財政部と税務総局は近頃減税に対して積極的な姿勢をみせており、中央経済工作会議でも減税政策として実質的法人税負担の軽減、社会保障料率の削減、行政管理手数料の削減など、より多くの展開が話し合われるだろう。

この他にも、市場の開放と構造改革促進を加速させることは、来年の中国経済において焦点となる。これは外部から絶えず圧力を受けている必須事項で、同時に現在の中国経済の問題を解消するための基本的な方策でもある。筆者の見立てでは、このような内容が中央経済工作会議のポイントとなるだろう。1:金融市場やサービス分野での開放を進め、外資の参入条件を緩和すること。90日間の米中貿易交渉に応じてこれらのプロセスは予想よりも早く進むかもしれない。2:競争中立を重視し、外資、国有企業、民間企業の競争中立の原則を重視して外部からの疑念を緩和することで、民間企業の信用を得る。3:知的財産権の保護を重視する。4:土地制度改革や公共サービスの均等化、国有企業分野における市場化改革を加速させること。

(FT中文網「中央经济工作会议前瞻:聚焦减税与开放」)