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【はじめに】
米中貿易戦争が混迷を深める中、中国政治では四中全会がまだ開かれないというちょっと困った状況です。これに関連して日経ビジネスオンラインで興味深い二つの記事が出ました。
- (津上俊哉)インタビュー
「米中首脳会談、中国が大きな譲歩をした理由ー破談となった時、米国は関税率引き上げられるのか?」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/120500178/
米中首脳会談の勝利者はどっち?表面的にはトランプの一方的勝利だが……」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/120400189/
お二人とも現代中国分野では高名な識者ですが、明確に畑というか情報ソースが異なります。そんな津上・福島両氏の指摘がともに「習近平やらかした(やりすぎた)」という声が共産党内部に結構溜まっていること、それが4中全会が開かれていないことと関係しているかもしれないこと、場合によっては経済担当副総理である劉鶴のクビが飛ぶくらいはあり得る状況であること、そういう意味で近々開かれるであろう中央経済工作会議、4中全会が重要局面という見解で一致している、というのは大変に興味深いことと感じるのです。
そんな中、翌年の経済政策の方針を決める「中央経済工作会議」が12月19日に開かれるという公式発表がありました。個人的には”ムービースタア(温家宝)と汪洋どなりあい”以来の修羅場となる”劉鶴吊るし上げ”がみられるのか!? というような注目の仕方しかできないのですが、今回は毛色を変えてフィナンシャル・タイムズや財新などに寄稿している経済専門家・沈建光の「中央経済工作会議の展望」という記事をご紹介します。経済はまったくの門外漢なので、優しく教えてくれると助かります。
「中央経済工作会議の展望:減税と市場開放を中心に」沈建光
毎年年末に開かれる中央経済工作会議は、中国経済の脈を測り翌年の経済政策を観察する鍵となる。昨年の会議が金融リスクの防止に焦点を当てていたのに対し、中国経済の内外におけるリスクは予測を超え、中国と米国の貿易戦争の深刻化、国内消費の減退、インフラ投資の低下、民間経済の不安定、資本市場の不振などの新たな状況により、すでに「6安定性」、すなわち「「雇用の安定、金融の安定、投資の安定、外国投資の安定、対外貿易の安定、安定した予測」というワードが最近の重要な意思決定に用いられるようになっている。
このような状況下で、筆者は今年の中央経済工作会議では経済のさらなる低成長を容認し、マクロ経済政策もより寛容となり、特に減税が不可欠であると予測する。それ同時に、米国との貿易休戦を積極的に推進し、市場開放と構造改革の強化が来年の経済活動における最優先課題だと考える。
【経済成長の目標は6%前後か】
近年では、中国経済の構造改革、また経済成長の全体的な下降傾向に伴い、GDP経済成長率の目標値も2011年の8%、2012年に7.5%、2014年には7%、2016年の6.5-7%、2017年にはは6.5%と、2年ごとにほぼ0.5%ポイントずつ下がっている。また中央経済工作会議が直面する「経済下方修正への圧力の増加」という現実から予測すると、構造改革と外部のリスクに対応するため、2019年のGDP経済成長率は6%前後まで低下させると予想される。
中国の経済成長を牽引してきた消費・投資・輸出の「トロイカ」の現在の状況から判断すると、中国経済のマイナス傾向は来年も強いままだろう。特に消費に影響する家計所得の伸び率の低下は、消費のさらなる減速を促すだろう。同時に、不動産価格の高騰、各種消費者ローンの締め付け、そして株式の価格下落などは、人口のかなり部分において消費行動の制約が進むだろう。また企業収益の低下などの要因も、住民の短期的な消費意欲を低下させる。いかにして消費刺激策を展開するか、これが今回の中央経済工作会議の主要なテーマのひとつとなる。
投資面では、財政目標に左右されるインフラ投資は今年の経済成長率に関わる中心的なものとなる。政策の転換に伴い、インフラ投資は10月以降加速している。中央経済工作会議では、”補短板”(弱点補強〈底上げ〉)を行うことで、インフラ整備の経済的役割を果たそうとするだろう。しかし、いくつかの”補短板”施策は数ラウンド後にもはや「底上げ」とはならず、また引き続き投資を増やしても限界利益は引き下がり、かつ政府の債務負担が大きくなるという制約に直面することを考えると、筆者は将来的なインフラ投資は鈍重なものとなり、即効性のあるものにはならないと考える。
不動産投資では、すでに不動産投資は減少傾向にある。同時期の土地購入伸び率が高いことを考えると、実際の不動産投資下落幅はさらに悪化している可能性がある。不動産市場についての対策は10月31日の政治局会議でも提起されず、年末の中央経済工作会議でもやはり曖昧なままとなり、不動産の長期的なメカニズムの確立を重視する程度だろう。現在の不動産販売の減少、住宅ローンの伸びが低下し続けていることを考えると、来年の不動産市場は全体的にマイナス傾向のままだと予想される。
製造業の投資は民間企業の信頼と密接に関係している。今年は民間企業の経営が困難に直面しており、一方で景気の低迷や資金調達環境の悪化に伴い、企業収益は下がりコストも上昇している。また一方で(政府が推し進めている)レバレッジの解消、過剰生産能力の解消、環境保護の強化や納税統一化などの政策は、民間企業への負担が明らかである。現在の政策決定層はすでに民間企業の地位を強化し、民間経済の発展をサポートし、民間企業への緩和的政策や財政的支援などを表明している。中央経済工作会議でもこの政策の方向性は継続されるだろう。
対外貿易では、数ヶ月前の高成長とは対照的に、11月の中国の輸出の伸び率は急速に一桁にまで低下した。これは米中貿易戦争を避けるために発動した「輸出前倒し」の刺激効果が弱まってきたことを示している。来年に向けてだが、著者は90日以内に米中間が休戦協定を結ぶことについて今も楽観的である。筆者の見解では、現在の華為、その前のZTEに関する事件は、すべて米中関係が貿易戦争から技術戦争へとシフトしたもので、かつ米中両国の経済体制とイデオロギーにおける違いにあると考えている。短期的に経済・貿易関係を保持する唯一の方策は、中国と米国の政治的、外交的、イデオロギー的な分野での全面的な対立を避けるため、中国経済の構造的転換のための時間を得ることだ。したがって中央経済工作会議では、10月31日に開かれた政治局会議で出した”外部環境に深刻な変化が発生した”という判断を継続し、米中の二国間貿易協定締結に向けて進めるかもしれない。
【減税と開放が2019年のキーワードとなるか】
内外からの圧力もあり、中央経済工作会議では「6つの安定」が強調されることになるだろう。そして2019年のマクロ経済政策面では「積極的な財政政策と慎重な金融政策」の継続が維持されると予想するが、しかし内容は昨年とは大きく異なる。例えば、金融政策で昨年提示されたのは「慎重かつ中立的な金融政策」だったが、それを進めている中で今年の前半には「レバレッジ解消と厳格な監督」が主要なトーンとなり、全体的に緊縮気味となった。そして今年後半、「レバレッジの解消」から「安定的なレバレッジ」へと変わるに伴い、金融政策もより緩和する兆しがある。
2019年の中国経済を展望すると、金融政策は「緩和基調の中立」を維持すると思われるが、それ次のような側面による。1:国内景気の低迷、民間企業の困難などをサポートするためには緩和的な金融政策環境が必要であること。2:世界経済がマイナス傾向で、FRBがよりハト派的な姿勢をみせ、ドル利上げサイクルが減速していること。3:インフレ圧力の低下により、10月のCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)は減少傾向を示しており、来年のCPI目標を3%に設定、実際のインフレーションレベルを2%にまで減少させ、金融政策のためのスペースを確保すると思われること。同時に預金準備率の引き下げ、金利引下げいずれとも政策選択肢となるだろう。
もちろん、中国の金融政策の有効性が低下していることを考慮すると、来年の積極的な財政政策は、まさに「積極」の文字通りより大きな役割を果たすかもしれない。2019年の財政赤字率(対GDP比)は3%を目標とするだけでなく、より広い範囲の減税は絶対必要である。近頃、政策指導者層の減税に対する態度も十分に明確であり、例えば習近平主席は民間企業フォーラムにおいて、企業が求めている「企業の税負担の軽減」を支持している。また財政部と税務総局は近頃減税に対して積極的な姿勢をみせており、中央経済工作会議でも減税政策として実質的法人税負担の軽減、社会保障料率の削減、行政管理手数料の削減など、より多くの展開が話し合われるだろう。
この他にも、市場の開放と構造改革促進を加速させることは、来年の中国経済において焦点となる。これは外部から絶えず圧力を受けている必須事項で、同時に現在の中国経済の問題を解消するための基本的な方策でもある。筆者の見立てでは、このような内容が中央経済工作会議のポイントとなるだろう。1:金融市場やサービス分野での開放を進め、外資の参入条件を緩和すること。90日間の米中貿易交渉に応じてこれらのプロセスは予想よりも早く進むかもしれない。2:競争中立を重視し、外資、国有企業、民間企業の競争中立の原則を重視して外部からの疑念を緩和することで、民間企業の信用を得る。3:知的財産権の保護を重視する。4:土地制度改革や公共サービスの均等化、国有企業分野における市場化改革を加速させること。
追記というか状況整理
昨日の投稿は、三中全会招集→要人(国務院秘書長・楊晶)免職→改憲で習近平の国家主席続投可能のコンボですっかり慌てふためいてしまいました。結局袁世凱ネタが飛び交っただけですかね…
改めていくつかのポイントを整理します。まずは「三中全会がこのタイミングで開催されることについて」。
昨日の記事で「異例」と称した三中全会の招集経緯ついて、大変よくまとまった内容がRFI(ラジオ・フランス・インターナショナル)から報じられてます。
以下部分引用訳
「中国共産党が国家樹立してのち、歴代の三中全会が最も早く開かれたのは6月で、最も遅かったのは12月、これまで2月の開催はない。清華大学政治系講師の呉強によると、慣例に照らせば今年1月に開かれた二中全会でもともと両会人事を討議するはずが、しかし結果として討議は憲法改正だけとなった。全人代と政協に人事リストを提示するため、両会の前に一度中央全体会議を開かなくてはならず、短期間のうちに三度中央全体会議を開催することとなった。」
このように「二中全会で議論し決めるものが、憲法改正しか話し合えなかった。そのため両会前に再度召集することにした」というのが直接的な理由です。
これは二中全会閉会後の1/22には香港明報、そして星島日報が「二中全会では憲法改正しか討議されず、三中全会が早ければ2月上旬に開かれる模様」と報じていることと平仄が合っています。
https://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20180122/s00013/1516558447035
http://std.stheadline.com/daily/news-content.php?id=1734305&target=2
まあ二中全会で「憲法改正しか決まらなかった」のか、「人事で揉めたため憲法改正しか決められなかった」のかの解釈はメディアや識者により異なりますが。
ともあれ、「今までに例はないがプロセスとしてはおかしくない」というのが三中全会招集の評価となるようです。
また前日のブログで「二中全会で決まってない多選禁止文言の削除なんてしたら」と書きましたが、これについても「二中全会ですでに改正内容が決められていて、昨日その詳細が公表された」というプロセスである以上、「合法クーデター」云々は騒ぎすぎましたね。常日頃からきちんとウォッチしてなかったら所詮こんなもんだと指差して笑ってくださって結構です。失礼しました。
以上、「三中全会開催について」だけでこんなに書いちゃいました。また肝心の「国家主席連任が可能となった意味」と、「両会人事」については、余裕があれば項を改めたいと思います。
明日、何かが起きる
今週末に、26日から三中全会の開催が発表されました。
http://politics.people.com.cn/n1/2018/0225/c1024-29833075.html
従来なら今年9月から12月の間に開催されるはずの三中全会が、二中全会からわずか1ヶ月後、しかも両会直前に開かれるという極めて異例のタイミングでの開催となります。
そしたら本日、改憲案として「国家主席と副主席の任期撤廃案」が提出されることが明らかになりました。この改憲案が通ると、つまり習近平は党、軍、国家のトップを終身で勤め続けることがルール上可能になります。
26日からの三中全会でこの改憲案が話し合われるものと思われますが、もしこれが二中全会で話し合われたものではなければ、これはもう習近平による合法的クーデターともいえるものです。
それと、三中全会は果たしてこの改憲案を話し合うためだけのものなのでしょうか?両会で決められるのは法律だけでなく全人代、政協、そして国務院人事も決められます。
そういうことで、直前に腹心の部下であった楊晶がやられた李克強さん、そして国務院副総理になるはずだった無任所中央委員の胡春華さんに要注目です。
新聞報道まとめと、習近平の「妥協人事」を考える
【十九大報道まとめ】
10月25日、中国共産党十九期常務委員のお披露目が行われ、今後5年の最高指導者層が決まりました。
この十九大人事に関する各メディアの先行報道で、結果として正解となったものが出た時期は、前回十八大と比べるとかなり遅かった感があります。自分が調べた限りですが、7名の名前を正確に出したのは10/14の台湾聯合報が最初。続いて10/18、十九大の初日にあたる日に香港明報と博訊から2015年に独立した在外華字メディアである「博聞社」が立て続けに出したことで、この予測が真実味を帯びた形です。
(3社の報道については、ujcの10/18記事を参照ください)
10/14というのは、十八期党大会の最後の会議である7中全会が終了したタイミング。つまり200人からなる中央委員会に「次の十九大指導者リスト」が提示された日です。ですのでこれらの報道は「7中全会で決まったリストをどこが早く伝えたか」という形になったと言えます。
さてそうなると、日本の皆さんは疑問に思うことでしょう。「それまで日本各紙が報じていた『王岐山留任』とか『陳敏爾が後継者に内定』とかいう報道は何だったのか?」と。「こうなるらしいよ」に関しては日本のメディアが突出して早かったことも、今回のメディア報道のもう一つの特徴です。
8/6 日本経済新聞朝刊「「68歳定年」延長提案へ 盟友・王氏の続投狙う」
8/24 読売新聞朝刊一面「中国次期指導部リスト判明、王岐山氏の名前なし」(リンク切れ)
8/28 毎日新聞「習氏後継に側近・陳氏内定 最高指導部入り」
これをただの「ハズレ」「取材力が落ちたのう」と批判するつもりはありません。もちろん観測気球に乗せられた可能性もありますが、ある程度の情報源と確度に沿って記事にされたと考えています。
*毎日新聞の「陳敏爾内定」は流石にないやろ、と思いましたが、フリージャーナリストの福島香織さんのツイッターによるご指摘で、この情報が複数筋に出回っていたことがわかりました。福島さん重要なご指摘ありがとうございます。
問題はこれらの報道の内容が「どのタイミング」で「どう変更があった」かであって、そこにどのような力が働いたのかを探る。それで今後の中国はどうなるか?という命題に向かうことが大切なのだと思います。
そこで、ここではメディアの報道が出たタイミングを元に、中国共産党の最高人事がどのように変わっていったのかを探ります。
【習近平「大勝」の根拠と常務委員のバランス人事】
改めて、十九大が終わった後のメディアはおしなべて「習近平大勝利」という論調ですが、この理由は2点に集約されます。
特に党規約に自分の名前を冠した「思想」を入れたのは過去でも毛沢東のみ。訒小平すら「理論」でかつ生前ではありませんでした。これをもって”格”としては毛沢東に並んだ習近平が、次の2期目5年間はもちらん3期目以降の総書記留任、下手すりゃ終身の最高権力者となる大義名分を手に入れたということです。
ただ、日本のメディアは先日の常務委員のお披露目をもってして「習近平に極めて権力が集中した体制」「習近平一強」という表現をしています。実はこれちょっと気になってます。
自分も「習近平大勝利」には異論がないのですが、今回の常務委員メンバーを見る限り「習近平の意向が全て反映された人事」とは到底いえず、明らかなバランス人事です。特に冒頭提示した通り、メディアの先行情報は一部日本メディアを除いてあまり活発ではなく、7中全会で「これで決まった」というリストが出るまで確たる予想は出回りませんでした。
これは「大勝した習近平が決めた常務委員7名のリスト」について箝口令が徹底していてどこも抜けなかった、というわけではなく、「不透明な状態が続いて直前まで決着しなかった」と理解すべきです。習近平は党規約に名前をのせる点では大勝利したのに(あるいはその見返りに)常務委員人事は二転三転した。これが実情ではないでしょうか。では振り返ってみましょう。
《2017年4月〜8月上旬北戴河会議前 習近平の初期人事構想(推定)》
先日新華社が出した興味深い記事があります。今回の中央指導者の選出過程について述べたものです。この記事自体は「いかにみんなで話し合って順調に選出したか」の印象操作ですので全てこのプロセス通りとは到底思っていませんが、注目したいのは「常務委員、中央政治局委員という指導者リスト作りは、十九大の約半年前から習近平主導で行われていた」ということ。
「领航新时代的坚强领导集体——党的新一届中央领导机构产生纪实」(新華社)
http://news.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/26/c_1121860147.htm
(引用訳)
「習近平は4月から6月にかけて、党と国家の指導者たち、中央軍事委員、党内の引退した幹部ら57人と個別に対談の時間を設けた」
ではこの時期に習近平が作ったリストはどのようなものか?実は、この期間の人事に関する報道はろくにウォッチできていないんですが、この時期の注目すべき人事動向としてはやはり「郭文貴による王岐山疑惑の暴露」と「後継者候補と目されていた孫政才の失脚と陳敏爾の台頭」です。ここから考えられる「習近平の出したたたき台」は、このようなものと考えられます。
習近平(留任)
李克強(留任)
栗戦書
汪洋
王岐山(留任)
韓正
陳敏爾
(ポイント)
・習近平が年齢制限を撤廃して王岐山を留任させようとしていたのはどうやら間違いない模様。
・その王岐山の留任と、自分の部下で(今のところ)最も若く信用できる陳敏爾を充てて自派をより強化する狙い
・ただし陳敏爾は後継指名というよりも、「若い60年代生まれから誰か」という程度のもの。胡春華を入れたくないための当て馬扱い
王岐山の動向が一番のポイントだった、というのは日経新聞が指摘するところで、後に各紙報道も同様の見立てをしています。ですので「最初は王岐山を留任させる意向だった」「年齢制限も今回外すことを提案しようとしていた」というのは大筋で認め得るものと思います。
《8月下旬〜10月上旬(新華社によると9/29) 北戴河後〜7中全会直前のリスト》
この習近平による次期指導者リストを元に、引退した幹部たちへの根回し&説得タイムが始まります。それが例年通り8月に避暑地で開かれる「北戴河会議」で、常務委員人事では非常に重要なイベントになります。実際、8月の北戴河会議が終わってからしばらく経つと、各メディアによる19大人事予測が本格化し、いくつか「こんなメンバーで固まったらしい」という報道が出ました。引退幹部といえど旅行帰りでテンションあがって「こんな話が出たんやで!」とウキウキ喋る人がいるんでしょうねえ。この時期に合致するのが、読売新聞と毎日新聞の報道です。
習近平(留任)
李克強(留任)
汪洋
韓正
栗戦書 中央規律検査委書記
陳敏爾 国家副主席・中央書記書書記・宣伝イデオロギー担当
胡春華 常務副総理
ポイント
・王岐山の留任は反対意見も多く、本人も引退を望んでいたため退任の方向に。
・胡春華を入れることを余儀なくされるも、あくまで陳敏爾とのセットかつ陳より下位であることが習近平のギリギリライン
・王岐山の後任は栗戦書を充てる
この習近平による修正リストが18期党大会第7回中央全体会議(7中全会)で通ると、「十九大で通過させるリスト」の完成となります。しかしこの過程でも、陳敏爾の常務委員にエクスキューズがついた模様。やはりヒラの中央委員から常務委員へと二段とびすることを長老たちに納得させるには、それなりの理由(=後継者として認定)と実績が必要だということでしょう。毎日新聞が「後継者に内定」と踏み込みすぎたのは、このあたりの読み間違いにあったのではないかと。
(ちなみに中央委員から常務委員への二段とびは、胡錦濤(14大でヒラ中央委員から昇格)曽慶紅(16大で政治局候補委員から昇格)習近平(17大でヒラ中央委員から昇格)李克強(17大でヒラ中央委員から昇格)のみ。他には中央候補委員から常務委員へと異例の三段とびをした朱鎔基がいます
*水彩画さんのツイッターでのご指摘により訂正しました(10/30))
陳敏爾の昇格が見送られたことで、習近平が胡春華のみを常務委員に昇格させる理由はなくなりました。また明報によると、この時期に胡春華が謎の「体調不良による辞退」をしたそうで。毎日新聞金子客員編集委員も8月に「胡春華が上申書を習近平に提出し『自分は後継者になるつもりはない』と訴えた」というし。胡春華さん全面戦争を避ける為とはいえ、ちょっとヘタレすぎだと思います。
[https://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20171026/s00013/1508955081452:title=明報「消息﹕胡春華陳敏爾或入京 習舊部多入局 粵滬渝書記料換人」
]
毎日新聞(8/5)「孫政才氏逮捕 “皇帝型独裁”へ習主席の「後継者つぶし」」
こうしてリストから陳敏爾と胡春華の名前がけずられて5人まで確定となりました。習近平が「めんどうだからこれでいいや」と5人で決めてしまっていれば「ujc大正解!(10/10予測記事)」となっていたのですが、まあそうはいきませんわな。
《最終的な常務委員リスト(9/29-10/14に確定、ただし序列と職掌はその後も変更の可能性あり)》
習近平(留任)
李克強(留任)
栗戦書 全人代委員長
汪洋 政協会議主席
王滬寧 中央書記処書記・イデオロギー担当
趙楽際 中央規律検査委書記
韓正 常務副総理
また「栗戦書を規律委員書記にする」も、お披露目後の朝日新聞によると直前にひっくり返った模様。ここは規検委のリストが出るまでどのメディアも「栗戦書が規検委書記」でまとまっていたので、この変更はかなり気になりますね。
10/25 朝日新聞「党規約に名刻んだ習氏 水面下で最側近後任人事は譲歩か」
最終的には組織部長として習近平部下の重用に一役買った趙楽際を昇格させて中央規律委書記に充てることに。そして中央政治局委員の中で江沢民、胡錦濤、習近平の3人に仕えて派閥色がなく、何より部下すらおらず権力闘争とは完全に安パイである王滬寧を昇格させることで決着。王滬寧さんさぞかし驚いたことでしょうねえ(笑)
これで常務委員リストが完成し、10/14の7中全会で通過。十九大に送られることとなり前述各紙にリークされるに至った…。これが今回の常務委員決定までの大筋と見立てます。
改めて強調したいことは、習近平が党規約では毛沢東に並ぶという「大勝利」の裏で、常務委員人事では
・「王岐山留任」→退任で妥協
・「陳敏爾を常務委員に昇格」→反対が多かったので妥協
・「栗戦書を規検委書記に」→理由もタイミングも不明も、趙楽際で妥協
と、すくなくとも3つは妥協を強いられたということです。
逆に妥協をしてでも通したものは何か。それはやはり「習思想を加えた党規約」と「後継指名なし」ということでしょう。「習近平は総書記3期目以降を視野に入れている」というのが、半ば当然のこととして識者が語るのも、こういう点を踏まえてのことです。それが「党主席制の復活」なのか、「任期制限のない総書記と任期制限が決められている国家主席の分離」なのか、はたまた権力闘争の末に「院政」という形で終わるのか、驚きの「王朝樹立宣言」なのかは定かでありませんが。
この常務委員人事決定のプロセス、「68歳定年」など集団指導体制がかろうじて残った証左と評価してもいいのですが、習近平が5年後の捲土重来を期して、それこそぐうの音も出ないレベルで人事に手をつけることは容易に予測されます。実際に中央政治局人事、および十九大明けの地方人事ではすでに習近平色が明らかになりつつあります。
(10/28に胡春華が広東省党委書記から外れ、習近平の元部下である遼寧省党委書記の李希が担当する旨が発表されました。また常務委員に昇格する韓正の後任となる上海市党委書記には、同じく元部下の江蘇省党委書記・李強の就任が濃厚とされています)
ここしばらくから来年3月の両会まで、人事情報には引き続き注視が必要です。長くなりましたが、各新聞記者さん、ジャーナリストさんたちの今後の報道を期待してますということで。
それではまた5年後にお会いしましょう(?)
【やることがやっぱり引き篭もりのオタクや】
毎日新聞によると、常務委員への昇格が有力視されている王滬寧の動静を報じた国営メディアの記事が中国国内のサイト上から次々と消え、「何が起きたのか」と臆測を呼んでいる模様。
(毎日新聞「王政治局員の動静巡る報道 ネットから次々消える」)