【毎日新聞さんの分析記事待ってます】

十九大閉幕日にようやくというか、日本の日本経済新聞産経新聞、そして読売新聞も「常務委員昇格は栗戦書、汪洋、王滬寧、趙楽際、韓正」「胡春華と陳敏爾の常務委員昇格はなし」という報道を後追い開始。
日本経済新聞「中国共産党、次期最高指導部7人固まる」
産経新聞「「ポスト習」登用せず きょう閉幕、中国最高指導部7人判明」
読売新聞「習氏の「後継者」を当面置かず…中国新指導部」

【習近平大勝利ということです】

本日24日、十九大が閉幕しました。いくつかのポイントをQ&A式で整理します。

習近平新時代中国特色社会主義思想」という長ったらしいネーミングで「マルクス・レーニン主義」「毛沢東思想」「蠟小平理論」「”三つの代表”重要思想」「科学発展観」とともに党の行動理念として加えられました。
わずか一期5年の総書記在任で、毛沢東と並ぶ位置づけとなりました。次の5年はおろか10年まで総書記が完全に視野に入ったと言っていいでしょう。

  • 中央委員の選出にサプライズは?

同じく本日、中央委員、候補委員、中央規律検査委員会委員の選挙が行われ、19期のメンバーが決まりました。
この中に注目の王岐山の名前はなく、従来の予想通り引退となります。ただ常務委員会へのオブザーバー参加と国家監察委員会(来年3月の全人代で立法化予定)については未だ定まっていません。また、規律検査委員の名簿に趙楽際・党組織部長の名前がありましたので、彼が常務委員に昇格の上で次の規律検査委書記に就任することが確実視されています。


他には、中央委員の一覧に李源潮(67)の名前がありませんでした。前回十八大では常務委員に昇格するのでは?とまで注目されていた人物ですが、国家副主席という権限のない冠婚葬祭職にスライドさせられた上に、バンバン失脚報道が流れ、政治生命も風前の灯…という悲しい5年間でしたね。来年3月に同じく名誉職である政協副主席への就任が噂されていますが、さてどうなることやら。


陳敏爾の他にも蔡奇・北京市党委書記(61)や応勇・上海市長(59)など習近平の元部下で中央政治局入りが予想されているメンバーも、順当に中央委員入りしています。李鵬の嫌われ息子・李小鵬も候補委員から昇格ですね。彼らの注目は中央政治局に入るかどうかですので、こちらもまた改めて分析したいとおもいます。

  • で、明日発表される新常務委員のメンバーは?

既報の通りの7名でほぼ固まっていますが、序列および予想される職掌には(来年3月の両会まで)未だ不透明なところがあります。
習近平→留任
李克強→留任
栗戦書→全人代委員長か?
韓正→政治協商会議主席or常務副総理
汪洋→政治協商会議主席or常務副総理
趙楽際→中央規律検査委書記
王滬寧→中央書記処書記(宣伝イデオロギー担当)か?
明日出揃ったところで改めて分析しますが、今回の人事、習近平が3期目も視野に入れているとした場合、汪洋は朱鎔基みたいな役割になりそうですね。ひょっとしたら後継総書記は指名せずも、後継総理は指名しているのかも知れません。

【悲しいなあ】

「微レ存」程度に常務委員候補に名前があがっていた李源潮さんについては、博聞社が独自ソースとして「十九大で中央政治局から外れ、政協会議副主席に就任。まあ捕まらないだけマシなんじゃね?」と報道をしている模様。
博聞社「獨家:李源潮“软着陆” 貶全國政协副主席」

【他の予測をまとめて】

十九大もまとめ役に徹している多維新聞によると、サウスチャイナモーニングポストは「栗戦書は全人代委員長、趙楽際が中央規律検査委書記、王滬寧が宣伝イデオロギー担当」と予測。また別の記事では「韓正が政協主席で、汪洋が常務副総理」としている模様。

全く違う予測をしているのは台湾の自由時報(あと毎日新聞もですね)で、「党主席が復活して習近平が兼任、常務委員は李克強(総理)に加えて汪洋(全人代委員長)、韓正(政協主席)、胡春華(国家副主席・中央党校校長・中央軍事委員会副主席)、栗戦書、陳敏爾」としている模様。
(多維新聞「十九大即将闭幕 高层人事“猜谜游戏”揭晓 」
(同「港媒再曝七常委名单 两人又有新说法」

【爺さんが習仲勲の戦友だったという噂は(それなりの確度と思いますが)留保してます】

会期中の名簿リークに定評のある明報によると、規律検査委員の19期名簿に王岐山の名前はなく退任は確実な情勢とのこと。なお後任としては党組織部長・趙楽際の名前があったということで、彼が常務委員に昇格して王岐山の後任となることが有力視されています。
明報「趙樂際掌中紀委機會高 候選名單不見王岐山」

【中華史上もっとも出世した(予定)オタク】

常務委員予測については既報の通りほぼ収束しつつありますが、その中で注目を受けるであろう人物といえば、やはり王滬寧(62)でしょう。
若くして上海・復旦大学の教授から中央政策研究室に入ると、江沢民胡錦濤習近平と総書記3人に仕えた知恵袋です。表舞台に出ることは殆どないながら、江沢民の「三つの代表論」や胡錦濤の「科学的発展観」といった歴代総書記の主要理念や各種スピーチは彼から出たものと言われる、まあとんでもない人物です。


その王滬寧が領導候補として俄然注目されるようになったのは十八大以降、中央政治局入りしてから。総書記である習近平の視察や海外歴訪に、栗戦書とともに王滬寧も必ず同行しており、訪米時には「カール・ローブキッシンジャーを合わせたような存在」とこれまたとんでもない表現をウォールストリートジャーナル紙に書かしめました。
まあ「軍師」が好きな中国歴史好きには堪らんキャラですが、上述の内容含め、王滬寧のことを詳しく紹介したコラムを、2014年に毎日新聞の坂東編集委員が書いていますので25日以降に「王滬寧とは?」と騒ぎ出す前に予習しておくとよいのではないでしょうか。
毎日新聞「チャイナ・ブリーフ(1) 習近平の知恵袋の日本観」


なお遠藤誉さんによると、王滬寧は習近平が総書記候補として中南海に入った時、「お前は何も分かってないんだから不用意に喋るな!」と習近平を怒鳴りつけたそうで。前掲コラムにある日本への留学希望書類を書いている際に「キレた」というエピソードといい、なかなかにキャラが立った御仁であると見受けます。
週刊ポスト2016年6月10日号「習近平氏に寄り添う謎のブレーン「オウ・コネイ」の人物像」


最初、私は習近平と王滬寧の関係を;
「超優秀だけどコミュ障で引きこもってた学者オタクが、ボス(習近平)に強要されていやいや外に出されるうちに周りから認められ、晴れて社会復帰を果たして表舞台に立つ、、、」
...というハートフルコメディ的な筋書きで脳内補完し、一人ほくそ笑んでいました。しかし毎日新聞や遠藤さんのエピソードをみると寧ろこんな感じの方がしっくり来る模様。
「人の良さだけが取り柄のボンボン(習近平)が、エキセントリックなオタク学者(王滬寧)に怒鳴りつけられながら徐々に成長していき、自分を引き立ててくれた(傀儡として操ろうとしていた)巨悪と対決する」
まるで映画「スミス都に行く」と「セッション」を足して2で割って、「英国王のスピーチ」を振りかけたような話ではありませんか。別に習近平を「人がいい」とは思ってませんが、「論破好き(復旦大学教授時代にディベート大会で優勝経験ありとか)」「PCゲーム好き」という属性から、王滬寧が「オタク」だというのは譲れません(笑)。

なお王滬寧の職掌ですが、政治協商会議主席(序列4位)か中央書記処書記兼イデオロギー担当(序列5位〜7位)と噂されています。オタク(行政経験のない理論派学者)が序列4位になると共産党史上初の快挙となりますので、この点でも注目です。

祭りが始まったばかりですが

【「内定」うつならこのタイミングでしょ】
十九大が開幕したばかりですが、なんと常務委員人事予想について、早くも一つの結論に収束しはじめています。UJC的には内定扱いです。


この人事を予測した記事と日付を以下列記します。台湾、香港、その他と、それぞれ拠点が異なる複数メディアから出ていることに注目してください。個人的には、名簿が固まったとされる時期(後述)に明報が報じたことが、かなり信憑性が高いと思っています。

10/14 聯合報(台湾)「最高權力新搭配 7人制常委引進5新血
10/18 明報(香港)「破隔代指定 新常委料無60後接班人 新星胡春華陳敏爾出局 王滬寧趙樂際入常
10/18 博聞社(在外華字)「中共十九大常委名单揭秘(五)七人常委名单和十九大后走向

これらの報道が出た14日から18日というのは、十八期七中全会の閉幕日から十九大が開会した日に合致します。つまりこの時期に複数メディアから同じ内容の情報が出ることは、北戴河以降の叩き台人事が二転三転し、七中全会を経て最終的に固まった人事リストが漏れたもの、と解釈できるのです。


【今後のスケジュール】
18日に開幕した十九大ですが、本日から分科会という名前の根回し工作が行われ、最終日24日に党規約改正などの決議と中央委員・中央候補委員が選出されて終了。翌日25日の十九期一中全会で中央政治局常務委員と政治局委員が選出され、その日に指導部のお披露目となります。

20日から24日の分科会は、各議題の検討会といいつつも実際は差額選挙(候補者数と選出者数が異なり、落選する人が出る選挙)のための調整期間であり、25日の中央政治局委員と常務委員の選出は差額ではなく等額選挙ですので、ただの追認儀式です。つまりこのタイミングで名簿がひっくり返る波乱はありえません。
*10年前の十七大中央委員選挙では「習近平落選するんじゃね?」という情報が出たことがありますので、「陳敏爾落選するんじゃね?」くらいは噂として出るかもしれませんが。

もちろん、これら中央政治局常務委員選出の流れ(名簿リストの確定時期)は明文化されたものではありませんので、何かが起きる可能性はゼロではありませんし、何よりも前述の報道が全て「同じリーク先で間際のブラフに騙された」という可能性もないわけでないと申し添えておきます。そんときゃ反省文でも書くことにします。

ただ謎の陳敏爾推しを続けている我が国のマスメディアのみなさん、特に「陳敏爾が後継者に内定」なんて書いちゃった毎日新聞さんは、言い訳を考えておくか、いますぐ王滬寧のネタを色々探してきた方がいい情勢であることは指摘しておきます。