【はじめに】
15日に登場した常務委員のメンバーをもういちどおさらいしてみましょう。
序列1位 習近平(59) 党総書記・(国家主席)・党中央軍事委員会主席
序列2位 李克強(57) (国務院総理)
序列3位 張徳江(66) (全人代委員長)
序列4位 兪正声(67) (全国政協会議主席)
序列5位 劉雲山(65)  中央書記処常務書記
序列6位 王岐山(64)   中央紀律委員書記
序列7位 張高麗(66)  (国務院副総理)


胡錦濤"惨敗"の理由】
 どのメディアもこのメンバーを見て「江沢民寄り6名:胡錦濤の子分1名」という「胡錦濤惨敗」人事と解釈しています。この中で胡錦濤の権力基盤といわれる共青団出身は、李克強劉雲山の2名。しかし劉雲山は、団とはいっても内モンゴル赴任時に2年程在籍していただけ(ちなみに、その時の団中央書記に胡錦濤がいたため、団派説の根拠となっていた模様)、経歴の殆どを宣伝部で過ごしたバリバリの宣伝プロパーです。国内外で絶賛大不評のウェブ検閲や思想弾圧も、実際の指揮をとっていたのは副部長であった彼。故に劉雲山の立ち位置は中央宣伝部時代の上司にあたる丁関根・李長春の薫陶を受けた、江沢民(保守)寄りの人物と解釈されています。そうなると、胡錦濤子飼いと言えるのは今回の常務委員中で李克強のみ、となるわけです。

 さらに大きかったのが、5年前の十七大でヒラの中央委員をすっとばして中央政治局入りさせた団派のホープ2名、李源潮・党組織部長(62)と汪洋・広東省党委書記(57)を、ともに常務委員に昇格させることができなかった点です。慎重居士・調整型に徹していた胡錦濤が、5年前から周到に準備をし、かつ両者とも着実に実績を挙げていたこの人事。特に李源潮の昇格に関しては、補佐役として仕えた上司・習近平の評価も高く、さらに一時は江沢民も同意させたと言われていたにも関わらず、李鵬しか言わなさそうな「あいつは六四で云々。。。」といった老害の容喙でひっくり返ってしまったのは、まさに痛恨の一撃。十七大で準備していた「胡錦濤院政」の布陣ができなかった、これが「胡錦濤惨敗人事」と言われる所以なのです。


【"合意形成"には優れた習近平一期目体制】
 さて、「常務委員人事で胡錦濤惨敗!」と喧伝していますが、では老人の口出しでしっちゃかめっちゃかな顔ぶれになったのか、と言われると実はそうではありません。最高意思決定機関としての常務委員会は、保守に偏った分、常務委員会政策決定のルールと言われる「合意形成」(満場一致)には比較的スムーズな顔ぶれになっているのです。
習近平・・・太子党でも薄煕来と違ってアクのない好人物。軍にも顔が利く
李克強・・・周りに味方がいないものの、下には味方が一杯なので実務に専念
張徳江・・・何もしない
兪正声・・・脛に傷があるので何も出来ない
劉雲山・・・嫌われているので何も出来ない
王岐山・・・汚職摘発に全力。でも老人を怒らせることはしない
張高麗・・・李克強の監視役

 彼らに課されているのは、意見が別れそうな敏感な問題、直接的に言えば既得権益者である太子党上海閥の逆鱗に触れる問題(急進的な民主・改革政策や、陳良宇・薄煕来クラスの双規など)に手をつけなければいいだけ。”消防隊長”の異名を持つ王岐山が鬼の紀検委を率いる理由も、腐敗防止の対象に既得権益者層を巻き込ませず、かつ末端のおイタした小役人や企業家をバシバシと斬って捨てるための布石だと考えると合点がいくのです。

 また、今回のメンバーで数少ない「何かができる人物」と期待されていた王岐山汚職対策専門部署に入ったこと、さらには李克強は左右に味方がいないので何も尖ったできないということで、政策面では習近平が所々でリーダーシップを執れる場面(外交・軍・台湾あたりか)を発揮しつつ、内実は「合意形成」に主軸を置いた保守型になると思われます。というワケで習近平の一期目は言うなれば「安全運転のマッチョ主義」。尖閣諸島沖に海洋巡視船をバンバン送るのは抵抗ない面子なので、日本の海上保安庁には是非頑張って頂きたいと思います。


【最後に】
 最後に、今回新たに常務委員に昇格したメンバー5名ですが、年齢的に全員が1期5年のみ、2期目を迎えることなく引退と相成ります。再び5年後の十九大で大半が入れ替わり+後継者指名もあるよ!という、ウォッチャー大喜び猫まっしぐらな事態に。果たして団派の巻き返しはなるか?胡春華は無事に次期後継者の座を射止められるのか??という煽りをしつつ、次回一人反省会・中央政治局編に続きます。