【2012年18期党大会人事予想ー総論編】
《はじめに》
 勝手に来年の指導部人事などを予想してみたいと考えています。まあ釜の蓋が開くのは来年秋なので、信憑性が高いというよりも蓋然性が高い、程度の予想と思っておいて下さい。なお、カッコ内の年齢は、2012年段階の満年齢ですのでご注意下さい。


まずは復習を兼ねて、現在の中央政治局常務委員の一覧をご覧下さい。
胡錦濤(70)国家主席
呉邦国(71)全人代常務委員長
温家宝(70)国務院総理
賈慶林(72)政協会議主席
李長春(68)思想担当
習近平(59)国家副主席他
李克強(57)国務院第一副総理
賀国強(69)中央規律検査委員会書記
周永康(72)公安担当


《前提となる条件その1ー68歳定年制》
前回の17期党大会(通称17大・2007年11月)人事では3名引退(曾慶紅・呉官正・羅幹。黄菊は任期途中で死去)しました。曾慶紅も例外でなかったことや、何かと評判の悪かった賈慶林李長春が留任したことからも、68歳定年制が厳格に適用されるというのが、今回予想の第一条件です。
→現在の中央政治局常務委員9名のうち、68歳以上の7名が引退。現在の中央政治局常務委員で留任するのは2人(習近平李克強)だけになります。


《前提となる条件その2ー二階級特進があるかどうか》
中国共産党の中央指導部は、原則以下のようなステップを踏みます。
 中央候補委員(167名)
→中央委員(204名)
→中央政治局委員(25名)
→中央政治局常務委員(9名)

 この党内の最高指導部へ至る過程において、ウォッチャーを嬉々とさせるのが「大抜擢」、具体的には中央委員から一足飛びに中央政治局常務委員となる「二階級特進」です。しかしながら中国の2000年モノ人材登用システムは意外に頑固でして、この二階級特進を遂げた人物は過去20年(14大〜17大)でも;
  曾慶紅(15期政治局候補委員→16期中央政治局常務委員)
  習近平(16期中央委員→17期中央政治局常務委員)
  李克強(16期中央委員→17期政治局常務委員)
この3名だけです。

(5/31 訂正 朱鎔基も1992年の14期に中央候補委員から中央政治局常務委員に『三階級特進』をやってのけたという事例がありました。)

「誰も知らない知られちゃいけない」ような三男坊が急に「偉大な指導者」となる北朝鮮との大きな違いです。曾慶紅の場合は長年中央弁公室主任を務め江沢民の直系後継者と言われ、中央政治局入りは当然と考えられていましたが、本人が江沢民に直訴して政治局候補委員にとどまったと言われています。いわば「満を持した」実力者ゆえになせる技といえます。
 一方の習近平李克強は、後継指名が前提の人事。今回は2期10年が前提の習近平体制1期目なので「後継指名人事」は考えられず、また曾慶紅のような「陰の実力者」といった人物が現在の中央政治局委員には見当たらないことから、次回18大での二階級特進人事はないと考えていいでしょう。


※あまり注目されませんが中央候補委員→中央政治局委員という形の「飛び級」で見ると、現在の中央政治局委員では李源潮・汪洋が該当します。いわゆる出世頭であるこの2名は、習-李体制の柱として次回人事で常務委員に昇格することが予想されます。ちなみにもう一人、2002年の16大で飛び級を遂げたけど汚職で転げ落ちちゃった人がおります。元上海閥エースと言われた陳良宇さんですね。。。


 ということで、68歳未満に限定・中央委員からの二階級特進はなしと考えると、以下の68歳未満の中央政治局委員11人の中から、9名の中央政治局常務委員が誕生する公算が高いことになります。現実的には習近平李克強の2人が確定しているので、残る7つの席を9人で争う構図になります。


《次期最高指導者候補たち U-68の中央政治局委員》 
 姓名    現職(前職)
習近平(59) 国家副主席他(上海市党書記)
李克強(57) 国務院第一副総理(遼寧省党書記)
(すでに中央政治局常務委員)
劉延東(67) 国務院第一国務委員(党統一戦線部長)
薄煕来(63) 重慶市党書記(国務院商務部長)
張高麗(66) 天津市党書記(山東省党書記)
王岐山(64) 国務院第四副総理(北京市長)
劉雲山(65) 党宣伝部長(党宣伝部副部長)
張徳江(66) 国務院第三副総理(広東省党書記)
兪正声(67) 上海市党書記(湖北省党書記)
(ただし1期5年で定年引退)
汪洋(57) 広東省党書記(重慶市党書記)
李源潮(62) 党組織部長(江蘇省党書記)
(2期10年可能)


胡錦濤は伊達じゃない?》
 このメンバーをみますと、団派(6人)と太子党(6人)が多いことがまず目につくのと、「太子党の団派」(李源潮劉延東)「上海閥と言われていたが胡錦濤に転んだ」(張徳江張高麗)といったように、従来の対立構造では単純に割り切れないメンバーが多いのが特徴です。
 前回17大人事で、胡錦濤共青団のエース・李克強を後継者指名することに失敗しました。しかし江沢民・曾慶紅が推薦する「習近平後継」を認めた代わりに得たものは大きかったと言えるでしょう。江沢民・曾慶紅が隠然とした勢力を持つ状態ながら、中央政治局には団派関係者を次期人事にらみで送り込むことに成功しました(李克強・汪洋・李源潮劉延東)。また団派以外の人間でも、地方経験が長い人物(習近平兪正声張高麗・薄煕来)といった胡錦濤の好みが反映されているなど、さすが前人未到の常務委員4期を務めただけあって、調整能力は際立っていることがこの人事からもわかります。次期18大人事では、前々回の16大人事で引退した江沢民の影響が色濃く出ていたのと同様、「胡錦濤人事」と言えるような顔ぶれになるのが、次回人事の基本線と思われます。

 個人的な考えですが、本質的には胡錦濤は「保守派」「長老派」の系譜に連なる人間だと思っています。彼の地方勤務一番の功績はチベットで断固たる処置をとったことですし、胡耀邦との関係が注目されていますが、訒小平李鵬・宋平といった重鎮に評価されている点も見逃せません。保守派というスタンスを崩さずに巧みに他の勢力を吸収していく、派閥横断型の典型のような人だと思っています。それが、中央政治局委員に見られる派閥重複タイプが多いというメンバー構成によく見えるのです。ちなみに、胡錦濤が軍にイマイチ受けが良くないのは、ただ単に江沢民の嫌がらせと「病弱」という軍人にあるまじき体質なのではないでしょうか(笑)

 
キングメーカーは誰だ?》
 話を戻して、次回人事では「胡錦濤人事」が基本線になると思っています。その上で気になるのは2つ。一つは現・キングメーカーである曾慶紅の影響力がどのくらいあるかということです。前回人事では自身の引退と引き替えに江沢民に対して習近平を推薦し、返す刀で次期後継者の座を李克強から奪い取ることに成功しました。しかしながら中央政治局の面子で見るならば、彼の子飼い的人物が少なく苦戦気味。薄煕来や兪正声の常務委員入りと序列が、その指標になるはずです。


 またもう一つの注意点は、最近元気というかやばいというか、「ムービースタア」こと温家宝総理の影響力です。いく先々で「政治改革」を口に出し、薄煕来の紅いパフォーマンスを「文革の残滓」と批判してみたりと元気溌剌なムービースタア。ついには先日名指しこそされないまでも、人民日報に批判記事とおぼしきものまで出ちゃいました。「権力掌握か、さもなくば失脚か」という瀬戸際まで追いつめられている状態にあると思われます。世論の人気を背景に、国務院系を中心とした「政治改革体制」を整えられるかどうか。石油閥・天津経験という共通点がある張高麗を中央規律検査院あたりに押し込めるようなら、ムービースタアがキングメーカーへと華麗な転身を遂げたと言えるのではないでしょうか。


 他にも「紅衛兵世代が冷遇されているから年齢バランスが実は悪い説」とか「昔の『保守派』はどこに行った?」とか色々言いたいことはあるのですが、次回の個別寸評の中でそれを挿入しつつ、人事予想・序列予想に入りたいと思います。